本学会について (設立趣旨2006年 )

総合人間学会は、その前身である総合人間学研究会の時代から、市民の皆様と一緒に、人間とは何かについての研究を続けてまいりました

1.学会概要

本会の研究の深化と普及を目的として、以下の事業を行います。

  1. 大会の開催(年1回)
  2. 学会誌・学会編集書籍の発行
  3. 談話会の開催(関東地区年4回・関西地区年1回以上)
  4. ニュースレターの発行
  5. 各種部会の開催(若手部会など)
  6. 関連団体との連携・協力
  7. その他必要な事業

2.総合人間学会設立趣旨

私どもはこの三十余年、日本社会の片隅で、地道に人間研究を重ねてきました。その結果、私どもは総合的人間学の必要と、そのための各学問分野における指導的諸学者の参加による大きなシンポジウムの場を作る必要を痛感しました。以下にその理由と併せて、斯学に関心を持っておられる諸兄姉のご理解と参加を強く期待し、ここにお誘いのアピールをする次第です。

2006年2月 総合人間学会設立準備委員会

趣旨本文

現代の人類は、高度の物質文明を発展させながら、向うべき目標を見失い、自ら作り出したカオスの中に、当てもなく、さまよっている感があります。諸国家は自らの国益追及にのめりこみ、「人類益」など眼中になく、諸個人もまた目前の利益を追って、倫理なきマンモニズム(拝金主義)を世界中にはびこらせている有り様です。その結果、人類はいたるところで、自らの生存基盤であるエコシステムを破壊し、自らの墓穴を掘りつつあります。人類はまた、大量の破壊兵器を作り、非人道的な殺傷をくりかえして、他の生物には見られない残酷な、同種間殺戮を大規模に行なっています。

さらに現代人は、急速に発達をしたバイオテクノロジーを使って、これまでは「神の領域」とされていた遺伝子操作を行ない、クローン人間まで作りかねない有様です。他面で現代人は、飛躍的にすすんだ情報機器と情報システムを駆使して、かってない便宜を享受しながら、それらの道具にふりまわされて自己を見失い、新しい犯罪や複雑な人間関係に悩まされています。

こうした状況に加えて人類は、地上の覇者として、地球の表面をほとんど占有・支配しながら、人口を激増させて、食料・水・土地・森林・石油などの資源を浪費し、それらの欠乏から、危険な”資源競争”をまねき、難民を大量に発生させ、グローバルな社会的緊張や混乱を招来しております。数えあげればきりがない、これらの「世界問題」は、現代の人類をこれまでにない重大なターニングボイントに立たせております。しかもこうした世界問題は、本格的な解決を図らなければ、人類と文明を危うくすることが確実であるのに、その解決への方途も、共同作業もはなはだ遅れています。今日における世界の閉塞状況の根源は、まさにこうした人間の矛盾した生きざまにあるといえましょう。

ところで、上例の諸問題にはそれぞれに特有の原因が考えられますが、その奥には共通の原因として、人問の欲望と意志と活動があって、これらの問題は全て人間の「身から出た錆」と言わざるを得ません、したがって、今日のグローバルな難局に対処するには、人間というものの真摯な自己認識と反省が不可欠と申せましょう。現代人の直面する文明の矛盾は、ほかならぬ人問の自己疎外に根ざしていると言っても過言ではないと思われます。”汝自らを知れ”と言う古代ギリシャの神殿の託宣は、今日にあっては、総合的な人間学の要請となっていると、私どもは考えます。
なお、「自らを知る」という課題は、上記のような文明論との問題にとどまらず、物事を考える全ての人々の生き方に間わる問題であります。人間として地上に生を享けた私たちは、自分かどこから来てどこへ行く存在であるか。人間たる自分は何者であり、どう生きるべきかを考えないでいられません。自分とは何かを考えないで、単なる生物として暮すのでは、人間として生まれた価値は得られないからです。ところが、生活が複雑になり、人々が日々の多忙な生活に追われている現代では、大方の人々は過剰な情報や仕事や目前の雑事の中に埋没し、自らを省みて「生きる」ことの意味を深く考える時間も持ちません。これも、現代人が当面している、非常なパラドックスであり、一種の疎外現象であります。

こうした状況の中で、人間を全体として見直し、文明のありようを根底から再検討するために現代の科学と哲学の精華を集め、自由で心ゆたかな共同討議の場を作ろうではなかろうか? 私どもはこのように考えて、新しい人間学の創造を識者に訴え、本格的な共同研究を始めたいと念願しております。いうまでもなくこれは、きわめて困難な課題であります。20世紀初頭すでに、鋭敏な識者たちは、特殊科学がますます増大する反面で「人間の本質」はむしろ蓋い隠され、今日ほど人間が問題になった時代はないと指摘しました。この半世紀に物理学・生物学・電子工学・脳生理学等々の諸領域で生じた”科学革命”は、旧来の世界観の変革を促すような新知見をもたらした結果、皮肉にも人間の統一的把握はいっそう困難になっております。この傾向はこれからもますます強まり、人間に対する全体知は、積極的にそれを求めない限りますます遠ざかる事になるでしょう。逆説的ではありますが、それだからこそ、”人間と世界”の全体像を得るための研究と討議の揚が、必須となっていると言わねばなりません。

もちろんこの仕事は、さしあたり研究・討議の組織だけ考えても、大変な難事であります。方法上の観点からも、全体論的把握には、検証不能の領域に踏み込んで科学的認識の範囲を逸脱するという難点もあります。しかし各学問分野が還元論的な個別の研究にとどまって、人間と世界の全体像を失う今日の問題状況の克服をめざさない限り、人間学は決定的に破産し、人間の自己認識も歴史の方向づけも断念されなければならなくなりましょう。つまるところ、各分野での個別の研究を積み重ね、その中から人間認識に不可欠な知見をもらさず拾い出し、それらを体系的に整序する作業をくりかえすことで、全体像に接近するしかないでありましょう。

このためにまず、必要な諸課題を整序し、それらについて具体的な研究プログラムを作り、各方面から討議を行っていくことが、当面の仕事となりましょう。それにはまた、諸科学の分野から参加された人々の自由かつ闊達な討論の場を造らなければなりません。私どもが総合人間学会を発足させ、上記の志向を持つ凡ての真摯な”学生(がくしょう)”たちに、”聞かれた学”の場を設けようと呼びかける所以であります。研究者・教師・文学者・医師あるいは宗教家などの専門諸家に限らず、老若男女を問わず、同じ志を抱く全国の人士に、参加と御協力をお願いする次第であります。