安全保障法制関連法案に対する声明

安全保障法制関連法案に対する声明

2015年7月10日
総合人間学会運営委員会

総合人間学会は、現代の人類が直面している文明的諸問題を「人間とは何か」という問いを軸に研究している学会です。すでに本学会設立趣旨において、現代の諸国家が狭い「国益」にとらわれ、「人類益」への協力をおろそかにしている現状を指摘しました。

また、これまで「戦争と人間」「平和と人間」のシンポジウムなどを通して、この問題を問い続けてきました。そこで見えてきたのは、繰り返される戦争の惨禍と平和への願いが国連憲章と国際法の発展を生み、戦争そのものを違法なものとみなす思想を人類が共有してきたことです。また、平和とは構造的暴力からも解放された、世界の多様な文化が共生する安全安心な生存の権利が享受されていることでした。すなわち、真の平和を実現するためには、各国が豊かな自然環境を育み、相互に文化の多様性と尊厳を承認する、寛容と共生の思想が不可欠ではないかということです。

しかるに、安倍内閣が5月15日に国会に提出した安全保障法制に関連する11法案は、従来の政府の憲法第9条の解釈を根本的に変更し、集団的自衛権の行使をはっきりと容認しています。そこでは、米国とこれに敵対する国との軍事的紛争が我が国の「存立危機」と結びつけられ、憲法第13条の「生命、自由及び幸福追求の国民の権利」の保障に言及しつつ、海外での自衛隊の武力行使が必要かつ正当であると説明されています。

しかし、果たしてそれは日本国憲法前文と憲法第9条の平和主義の原則に本当に適っているのでしょうか。それは、戦後70年間、先人たちが守り続け、私たちが引継ぎ、後世へと受け渡していくべき平和のための努力と合致しているのでしょうか。それは戦争を違法とし核廃絶をもとめる国際世論の動向、暴力を排し平和を求める世界の動きに対して逆行するものではないでしょうか。いまや、いかなる戦争も憲法第13条の個人の尊重と生命、自由及び幸福追求の権利の原則を犯すことになるのではないでしょうか。

「抑止力」の名のもとに、自衛隊の活動の大幅な拡大と武力行使により他国の人々を殺戮する可能性をひろげることは、対話すべき相手に銃口を向けて平和を語るようなものです。そこから真の平和を実現するための「寛容と共生の思想」は決して生まれません。まさに「人類益」に反するものではないでしょうか。

それゆえに、私たちはこの度の安全保障法制関連の法案に強い疑念を抱き、この法案が突きつけている人間学上の戦争と平和の意味を本学会が取り組むべき重要な研究課題として共同討議を行うとともに、多様な視点からの議論の徹底とその国民的な広がりの必要性を強く訴えます。

以上

総合人間学会
Website: http://synthetic-anthropology.org/

こちら から上記声明のpdf版をダウンロードしていただけます。

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